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東京高等裁判所 平成10年(ネ)3396号 判決

控訴人(原告) 株式会社サイプレス

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 岡田正美

同 齋藤一彦

被控訴人(被告) 株式会社コスモヒル

右代表者代表取締役 B

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は控訴人に対し、金二四〇〇万円及びこれに対する平成一〇年九月二二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は控訴人に対し、金二四〇〇万円及びこれに対する平成一〇年九月二二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え(当審において請求減縮)。

3  訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

第二  事案の概要は、原判決の事実及び理由の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、控訴人は、遅延損害金の起算日を平成一〇年九月二二日に変更し、請求の一部を減縮した。)。

第三  当裁判所の判断

一  本件保証金の据置期間の起算日について

証拠(乙一、二)及び弁論の全趣旨によれば、本件保証金は本件ゴルフクラブの正式開場から一〇年間据え置くものされていること及び本件ゴルフクラブは昭和六三年九月二〇日に正式開場したことが認められるから本件保証金は、平成一〇年九月二〇日に据置期間が満了したものというべきである。なお、控訴人は本件保証金の据置期間の起算日は、本件会員証券の発行日とされている昭和六二年八月一日である旨主張するが、右主張は採用できない。その理由は原判決書八枚目裏三行目の「本件入会契約締結後である」から同一一枚目表六行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。したがって、本件預託金返還請求権は、平成一〇年九月二〇日の経過により据置期間を経過したということができる。

二  そこで、被控訴人の本件保証金の据置期間延長の抗弁について検討する。

当事者間に争いのない事実及び証拠(乙一、二)によれば、本件ゴルフクラブは、いわゆる預託金会員の組織であって、本件ゴルフクラブは被控訴人の意向によって運営され、ゴルフ場を運営する被控訴人と独立して権利義務の主体となるべき社団としての実体を有しないことが明らかであるから、その会則は、これを承認して入会した会員と被控訴人との間の契約上の権利義務の内容を構成するものということができる(本件会則によれば、本件クラブの理事はすべて被控訴人の取締役会で選任されるものであり、また本件クラブには会員総会の規定はなく、会員において右理事の選任に関与し得る仕組みにはなっていない。)。

ところで、会員は、右の会則に従ってゴルフ場を優先的に利用しうる権利及び年会費納入等の義務を有し、入会の際に預託した預託金を会則に定める据置期間の経過後に退会のうえ返還請求することができるものというべきであり、右会則に定める据置期間を延長することは、会員の契約上の権利を変更することにほかならないから、会員の個別的な承諾を得ることが必要であり、個別的な承諾を得ていない会員に対しては据置期間の延長の効力を主張し得ないものと解すべきである(最高裁昭和五九年(オ)第四八〇号・昭和六一年九月一一日第一小法廷判決・判例時報一二一四号六八頁参照)。本件クラブ会則六条二項但書には、会員資格保証金(預託金)について「天災、地変その他クラブ運営上止むを得ない事情があると認めた場合は、理事会及び取締役会の決議により返還の時期、方法を変更することがある。」旨記載されており(乙一、二、三の二)被控訴人は、右会則の規定に基づいて本件ゴルフクラブの預託金の返還時期を五年間延期することについて、平成九年五月中旬から下旬にかけて理事会決議(持ち回り決議)を行い、同年七月一日、被控訴人の取締役会で決議して、右返還時期を五年間延長することを決議したのであり、右期間延長決議には、バブル経済の崩壊により会員権相場が下落して、会員権価格が預託金額を大きく下回ったため、預託金据置期間の満期に預託金返還請求が集中する事態となったが、被控訴人の経営状態は平成八年九月三〇日現在で営業損失約三八億円、当期未処理損失約七〇億五〇〇〇万円で、一斉に資格保証金約一六〇億円の返還請求を受けた場合には、本件クラブの運営の継続が不可能になることは明らかであるという止むを得ない事情があったのであるから、預託金据置期間を延長すべき合理的理由があり、右決議された延長期間も五年間という短期間であって合理性を有するものであり、右決議は有効である旨主張する。

しかしながら、被控訴人の右経営状態の悪化が、仮にバブル経済の崩壊等被控訴人の予期せぬ事態の発生によるものであったとしても、据置期間の到来は所与の事実であり、その間の経済変動については当然に考慮されるべき事柄であるから、これをもって天災地変に比すべきやむを得ない事情ということはできず、しかも、仮に右決議どおり据置期間を一律に五年間延長したとしても被控訴人の経営状態が必ず好転し、右預託金返還請求に応ずることが可能になると認めるべき的確な証拠もないことを考えれば、本件預託金据置期間の延長決議に合理的な理由があるとは認めがたいといわなければならない。被控訴人の据置期間延長の主張は採用することができない。

三  よって、控訴人の被控訴人に対する本件請求(当審で減縮後のもの)は理由があり認容すべきであり、これと異なる原判決は相当でないからこれを取り消し、控訴人の本件請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条を、仮執行宣言について同法二五九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 宗宮英俊 長秀之)

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